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そしてある日
「私のシークレットガーデンにいらっしゃい。」
そう言ってくれた彼女の声を突然に思い出しました。
彼女は私が通っていたスウェーデンでの大学の、
テキスタイル学部の担当助教授でした。
生粋のイギリス人女性で
苦もなくスウェーデン語を流暢に話し、
白髪の長く美しい髪を頭のてっぺんでキュッとまとめあげ
スウェーデン人に引けを取らないのその長身に
いつも美しくカットされた黒服を身に纏っていました。
スウェーデンの大学は日本の大学のそれとは違い、
教授陣も学生も驚くほど、対等な関係を築いていました。
自分の作品や考えを述べる時の学生達の姿は
まるで、教授陣を押すかのように勢いよく、
活発に討論され、その様子には正直圧倒された自分を
今でも覚えています。
ただ、そんな教授陣の中で、彼女の存在は格別に異なっていました。
装いからも感じられる揺るぎない美的感覚、
そして、じっと見据える青く澄んだ眼差し。
そこには、他の教授陣には感じられない、威厳と風格を
強く感じさせました。
そんなある日、図書館から何冊もの本を抱えながら
教室に戻った私に彼女はこういいました。
「私のシークレットガーデンにいらっしゃい。」
スウェーデン人は、都会の生活とは一線を引いて、
サマーハウスと呼ばれる別荘や、コロニーと呼ばれる
小さな小屋を隣接させて庭を持っている人々が多くいました。
ただ、想像するようなバケーションとは異なり、
自然を感じることを基本とし、あえて不便な生活環境を
それらの場所で楽しむという、スウェーデン人らしい
発想でした。
彼女はそのコロニーを「シークレットガーデン」と
表現しました。
街からそう離れていない彼女の庭は、
急な坂道をのぼるその先に、ありました。