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Lagom:ほどほどインテリアVol.5

Lagom:ほどほどインテリアVol.5

雑誌をパラパラとめくっていたら、

ヨーロッパでは植物を育てるのが上手な人を

「グリーンフィンガーの持ち主」と呼ぶ、

と書かれていました。

緑の指・・・

奇跡的と言ってもいいほど、

あのサボテンさえも枯らしたことがある私にとっては

なんとも縁遠いお話しだと、思いつつ

雑誌を閉じました。

それから数日経って買い物の帰り、スーパー横にある花屋を覘くと

隅のほうに隠れながらも小指ほどの小さな白い花を咲かせた胡蝶蘭を見つけました。

私がスウェーデン・ストックホルムに渡り、まだ日が浅かった頃。

旦那さんを介して、スウェーデン人のご主人と日本人女性の

50代ぐらいの御夫婦を紹介してくれました。

奥様は、渡欧当時、本当に苦労された方で、

今以上に不便で、何の情報もなかったであろう

未知な外国生活の中で、

御自身の看護士という専門職をスウェーデンでも続けられるように、

懸命に国際資格を取られ、今では通訳というまたまた

専門的なお仕事が出来るほど、スウェーデン語を流暢に話され、

今のご主人様と温かなご家庭を築かれた女性でした。

確かまだ19歳か20歳頃の、何の考えもない浅く、

若いだけだった私にとっては、

そんな大人の女性にお食事をご招待して頂いたり、

対等にお話しする機会は、汗が滴り落ちる程の緊張でした。

ご自宅でのお食事は、日本食から離れた私たちを気遣って下さり、

手巻き寿司などを中心に、まるで御自分達の家族を迎えるかのように

本当に心温かい、素晴らしいおもてなしをして下さいました。

それでも、食器はどのタイミングでキッチンに運んだほうがいいものか、

気の利いた会話ってなんなのか、本当に分からずで、

何か言えば、ちょっと空気を読み間違えた発言をしてしまったり、

若さかな、今思うと、何を話していたんだろうと赤面する程の有様でした。

いつからか緊張が勝手に苦手意識へ変わりつつあった頃、

学生生活を続けながらも、簡単な通訳のお仕事を頂いた初めての時。

丁度、お給料を頂いた当日が、ご夫婦のご自宅へお伺いする日でした。

高級街に建つ、有名な花屋さんに立ち寄り小さな胡蝶蘭を購入しました。

いきなりで、なんと言って手渡せばいいのか、とにかく、「これ・・・」とだけしか

言わずに、心の中の感謝の言葉もろくに伝えられず

お渡ししたかと思います。

それからすぐに私は、ヨーテボリーという街に越して数年経った頃、

本当に久しぶりにお二人のご自宅にお招き頂いた時に、

部屋の窓側に一つの蘭が背筋を伸ばすように咲き誇っていました。

「あの時、あなたからいただいたものよ。」

そう一言、嬉しそうに奥様は

背中越しに言ってくださったのを今でも思い出します。

あれから何年経ったでしょうか。

サボテンさえも枯らしたことのある私の駄目な指は

あのグリーンフィンガーを持った女性のように、

この胡蝶蘭を育てられるのか。

そう思って一つ一つ、棚の上に小さな植物を増やしております。

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