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Lagom:ほどほどインテリアVol.12

Lagom:ほどほどインテリアVol.12

水は沸かせばお湯になる のこと


冬が来たなと実感するこの季節、
繰り返される日常の中で、当たり前のように
蛇口をひねり、あたたかなお湯が手をつたい、
食器を洗い、布巾を絞り、盥に溜まった湯を流しと、
たわいもない一コマの中で、
この時期になると発作的に
10年以上前にスウェーデンで暮らした、
あのお化け屋敷アパートの日々が
鮮明に思い出されます。


スウェーデン生活を語る上で、
欠かせない一つが慢性的な住宅難。

たかが、
一部屋借りるだけで一年、二年待ちなんて当たり前。
ウエィティング・リストなるものに登録しても
契約を結べるなんて奇跡といっても、大袈裟ではない程。
しかも、大学を卒業すれば学生という特権もなくなり、
部屋探しは一層、困難を極めます。

一年のストックホルム生活を終え、隣町での
生活をはじめようとした当時の私にとっては、
それこそ、外国人という身分のもと
部屋探しは一番過酷な試練でもありました。

新住居に対する希望は一日一日と
風船のように膨らみ、
その膨らみすぎた希望は、途端、
空気が抜けるようかのように
音をたてて慌ただしく萎んでいく現実が
突きつけられるという繰り返しでした。
ノーとは言える状況ではない中、
希薄な情報で入居を決めたアパートがこれ。

唯一魅力的だったのが
当時では破格な家賃と、
大学へは徒歩で通える街中という立地。

家主と会うため指定された日にちに
この崩れ落ちそうな建物の前に立った時、
その家賃の意味を知りました。

家主は、私が通う大学の卒業生カーリン。
彼女も大学を卒業後、新天地での
生活を控え、住人を募集していました。

スウェーデン美人を絵に描いたような
美しい顔立ちでありながら
快活な印象だったカーリン。

挨拶もそこそこ、カーリンとともに、
大きく重い、古びたエントランス扉を開け、
いざ中へ。

薄暗い螺旋階段を上り、裏切らない程の
古びた扉を旧式な鍵で開けると、
そこはまったくの別世界でした。
カーリンは大学ではインテリア学部を専攻、
そして、一般的なスウェーデン人同様、部屋の内装は
全て彼女が手掛けました。

続く

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